世界でいちばん深い海にはまだ誰も潜ったことがない

このスニーカーのことを私は、
「虹を駆ける靴」
と思っていた。

安全地帯の「ふたり」という曲に、
そんなフレーズがあって、
歌詞の内容とは関係なく、
私にとってはこれが、
虹を駆ける靴だと思ったのだ。

若い頃のこと。
通っていたスポーツクラブで、
片想いしていた人に勧められ、
初めてマラソン大会に出場した。

スポーツクラブでは、
エアロビクスが好きだったので、
それ用の靴だけ買って、
ランニングマシンでも、
その靴だった。

だから、
マラソン大会の為に、
このジョギングシューズを買ったのだ。

彼にもらったちょっとした物を、
お守り代わりに身に着け、
海沿いのコースを気持ち良く走り、
思いのほか良いタイムで、
１０キロを完走した。

まったくの、
まったくの自己満足なんだけど、
この靴には思い入れがあったのだ。



何年か経って、
この靴が壊れた時、
捨てる前に写真を撮った。

笑っちゃうね。
なんたるセンチメンタル。

そして、
後で「ふたり」の歌詞を調べたら、
勘違いだった。
私が記憶していたフレーズは、
正しくは「真夏を駆ける靴」だった。



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